人生観が変わるお勧め映画

癌罹患すると全てが変わる。いつも過ごしてきた当たり前の日々は当たり前でないという事。人生はいつかは終わる、死は生の一部だという事を頭では理解していても肌感覚では理解できない。

健康な時には病気については深く考えない。もし考える機会があるとしたらそれは映画の世界ではないだろうか。

退院し少しだけ体力が戻った時に最初にし始めたのは映画を見る事だった。化学治療で外へ出歩けないのはもとよりそんな体力がない自分がまずやりたい事であり出来る事であった。

入院中やはり病気の性質もあり多くのお年寄りが病棟におられ、お話もさせて頂いた。体力や筋力を失う事で、お年寄りはこのような世界を生きておられるのだと初めて知った。体力が回復し運よく再び生きていく事が出来たとしても今自分に起こった事は忘れないだろうし忘れたくない。

癌罹患し死に向かい、その事で多少は感性が変わり筆者がお勧めする死生観や人生観が変わるお勧め映画を書いてみたいと思う。

これはガツンときた。女子ボクサーのサクセスストーリーかと思ってみたら流石はクリントイーストウッド監督全く違った。

31歳で年齢的にもとうのたった女性マギーが老トレーナーフランキーに弟子入りを志願し、何だかんだありながら強くなり勝ち進んでいくという所までは予想通りだったのだがタイトルマッチ戦で相手の反則パンチが原因で半身不随になってしまう。

治る見込みがないマギーは隙を見て何度も自殺を試みる。最後はファイターであるマギーの心を汲み取りフランキーが自殺補助、安楽死させてしまうという救いのない話。

自殺補助する前にフランキーがマギーにマギーのあだ名モ・クシュラが「愛する人よ。貴方は私の血」という意味だと教える。その瞬間に涙を目に浮かべながら浮かべるマギーの笑顔が凄すぎて

その笑顔から読み取れるマギーの感情は感動・感謝だった。

フランキーはマギーにボクシングの手ほどきをした事を後悔した。だが当のマギーは家族にも恵まれず苦い人生を送ってきたが一瞬でもボクシングによって輝けた。そこに一末の救いを感じた。

寝る前に見るのは絶対にお勧めしないが人生の意義とは何かを視聴者に問うた力作だろう。

グラン・トリノ(2008年 アメリカ)

妻に先立たれて子供にも疎まれる差別主義者でもある頑固爺ウォルトと隣人のモン族(中国系)の若者との交流を通じて心を開いていくストーリー。

アメリカの中西部に住み着いている中国人の彼らはモン族というらしい。今アメリカはBLM問題などで人種同士の分断が明らかになりつつあるがイーストウッド監督は彼らを非常に好意的に描いている。

スーという娘がウォルト爺の中にある強さ、優しさに気づき近づいていくんだが、この娘が本当に感じが良いんだわ。

スーの弟タオは成長期にありがちな不良グループとの軋轢に見舞われるんだが、そこもごまかさずにイーストウッド監督は描いていく。

男としての口の聞き方、女子の口説き方、仕事をする事の大切さ。次第にウォルト爺はOldではなく彼の所有するVintageな男である事である事がわかっていく。

なによりウォルト爺が彼自身の中にあった差別主義の考えを改めていくのだ。

男らしさ、老い、友人の大切さ、好きな人を口説く事の大切さ。そして背景には今アメリカの抱える大きな分断社会を描いている。

衝撃のラストを含めてこの上なく価値ある一本だろう。

マイレージ・マイライフ(2009年 アメリカ)

これは10年以上前に見た事がありその時はマイルを貯めるのが生きがいの独身貴族を気取った寂しい男の話と思った。

10年たって改めて見てむしろ主人公ライアンに肩入れしている自分に気が付いた。全然ライアンいけてるじゃん!!

だってさ生き方がミニマリストなだけで思いやりやコミュニケーション能力は抜群なわけで。だからこそ大人女子とアバンチュールを楽しむ事も出来ているし、マリッジブルーになっている男子を結婚式に向けて説得する事も出来ているし、キャリアを生かして副業も出来ているし、メール一本で退職した今どき女子ナタリーへの推薦文も書いたりする訳で。何で昔この人をいけてないと思ったのかわからなくなった。

新入社員ナタリーも面白い娘で退職勧告人という仕事を業務フローシートで整理して誰でもリモート出来るようにしてコストカットを試みるというよく見るとかなり優秀な女子なんやけど自殺者が出るというトラブルが出た事によりその企画は白紙に戻る。何ていうか会社ってアホよねー、自殺者が出た事と仕事をリモートにした事とは関係ないのにと思うのだがそのアホさ加減が実生活にもそのまま当てはまっている事も多くリアルである。

ミニマリスト、リモート、副業など制作後今10年経って現実世界で結構リアルさを帯びてくる。働くビジネスマンに再見お勧めの映画である。

世界最速のインディアン(2005年 アメリカ・ニュージーランド)

60代のやもめの年金暮らしをしているニュージーランド在住のぶっ飛び爺さんがアメリカのソルトフラッツという平原でオンボロバイクで時速300km以上の世界記録をたたき出した実話に基づくお話である。

このお爺さんの特徴は老若男女モテる事にある。映画前半は船でアメリカに渡り、延々と陸路を貧乏旅行を続けるのだが行く先々で色々な人に愛され助けられる。

エントリーミスがありながらも周りに助けられ、最後は命を張って大平原の地平に向けてオートバイでぶっ飛んでいく世界記録を出す姿は少し滑稽でありながら最高に美しい。

自分が60歳になった時にこのお爺さんのモテているだろうか?
青春できているだろうか?
60歳になった時にモテていたり青春する為に今どんな準備をしておかないといけないのだろうか?そんな事を考えさせられる映画であった。

イエスマン Yesは人生のパスワード(2008年 アメリカ)

主人公はカールという銀行の融資担当をしている無気力な青年。ある日自己啓発セミナーで「人生で何かを選択する事を迫られた時Yesというようにする」という啓蒙をうける。カールはそれに従い日々事あるごとにYesと言っていくと不思議な素敵な事が沢山起こっていくというストーリー。

最初これを見たときとてもワクワクしたものを感じたものの同時にとても混乱した。

確かに色々な誘いに色々な事にYesと言ったら世界は広がる、拡散する。けれど人生は時には収束させ深めないといけない時期がある。その時はNoと言わなければいけない時期もあるだろう。

この映画は一体何を我々に伝えようとしているのだろうか。

調べてみると何とダニーウォレスという方が書かれた原作があり実話に基づいた話だというではないか。映画を見てこの作品の意図している事を理解していないと感じた自分は本を買って読む事にした。

早速Amazonで取り寄せて読んでみた。読んでみると世界観は原作と映画は似通っているがエピソード類はほとんど被ってない。ダニーウォレスは銀行の融資をしていないし、怪しげなYesセミナーにも行ってない、韓国語も学んでいないし、ギターも弾いてない。

ただ行きずりの人に「貴方はもっとYesを言うべきだ」と言われた作者が哲学的啓示をうけて実験的に期間限定で全ての事にYesと言ったらどうなるかという実験を行ったドキュメンタリーである。

読んでみてわかったのは作者の伝えたかったのは「Yesというポジティブな言葉の持つ言霊の力」だ。この本の中にある表現として「戦争にNoでなく平和にYes」と言ったほうが良いというのがある。映画を見ただけだとそれはちょっとその部分は捉えきれないかな。

交渉術の一つとして「イエスセット」というものがある。小さなイエスを積み重ねれば大きなイエスも取りやすくなるというものだ。自分自身対しても小さなイエスを積み重ねれば大きなイエスにもトライできるのだろう。

自分自身にどんなレベル7のイエスを言うか、筆者も今考え中である。

生きる(1952年 日本)

大学生時代に見て感動して、癌罹患した後もう一度Tsutayaで借りて見たら又味わいが違いまた感動してしまった。これが70年前の映画という事が信じられない。本当にこれは日本の誇る黒澤監督の不朽の名作。

時代は完全に戦後だし地域コミュニティとか和式の家とか今はなき文化があって懐かしい。だから流石に時代背景は違うし、志村喬の演技も大げさで演出も古くさい

癌に罹患した事を感づいた主人公は家族も拠り所がなくキャバレーで小説家で遊びまわったり、その勢いで部下の若い娘とも遊んでいるというのが前半。

そして後半の主人公の行動は主人公が亡くなった後のお葬式で周りにいた人によって客観的に語られる。

前半のお遊びも「生きる」って事やし、後半の最後のお仕事に情熱を注ぐ事も「生きる」って事だと思った。

部下の若い娘がこの上なく良い笑顔でここにも「生きる」という意味を感じさせてくれる。主人公も「生きる」という事の神髄をこの娘に見るのだけど、いつの時代も若い女の子は生きるという意味を本質を知っている気がする。

自分が死ぬ時に問われるのは自分がどんな地位にいたかでなく、何を得たかではなく「何を残したか」ではないだろうか。

類似有名作品として癌末期患者がBukket listを持って世界を飛び回る「最高の人生の見つけ方」(2007年)があるんだけど、この黒澤映画の前には単なるチャラいファンタジーにしか見えなかった。黒澤明の偉大さを世に知らしめた一品である。

アバウト・タイム 愛おしい時間について(2014年 イギリス)

チャラいタイムリープものかと思っていたが深い重厚な人生観、人生賛歌が見えて感動した。

前半は主人公が好きな女の子に対しストーカーすれすれの非モテコミットぶりを遺憾なく発揮するのには正直呆れてしまった。

マーゴット・ロビーにあそこまで言わせて袖にするってのは現実世界ではないんですよ。まあこういう話が女子ウケするんでしょうけど。

これを袖にするって意味わからん( ゚Д゚)

で後半どうするんだろうと思ってたら、後半はがらっとテイストが変わって父と自分との愛、別れがあってこれがまた泣ける。

一番感動したのは何気ない日常をそのままもう一度味わうのがタイムトラベルの一番の使い道、極意と父に教わり試してみる場面。

何時でもタイムリープして会いに来れるのに最後は決断の父と息子の別れがやってくる。別れに選んだ時期、場所。広い海が嘘のように美しくてそれがまた泣ける。

タイムリープ出来る主人公が最後は今日死ぬと思い生きる事に生きる事に極意を見出していく。前半20点、後半150点の映画でした。

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